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レビュー『"ひとり出版社"という働きかた』。私は、どんな円を描く?

『”ひとり出版社”という働きかた』

おもしろそう♪のノリで、手に取った、『”ひとり出版社”という働きかた』

最近、この本を読んでいました。 

“ひとり出版社”という働きかた

“ひとり出版社”という働きかた

 

 図書館で新刊本コーナーから手に取った時は、なんかおもしろそう♪というノリでした。
会社とかに縛られずに、ひとりで出版とかできちゃうの?!と。

 

「小商い」と呼ばれるかたちで届けられたものやサービスが、私たちの生活を豊かにしています。自分の信じる仕事を、自らの責任で、信じる人々とのつながりを築きながら成立させようとするビジネス。それは、自分らしい働き方を実現するひとつの方法として、広がりを見せています。

(西山雅子『”ひとり出版社”という働き方』はじめにより) 

 

出版って、た、大変!!! 

でも、途中で読み進めるのがつらくなるほど、大変なんですね!出版するって。

出版業界には、特殊な流通や卸売りの仕組みがあるそう。

ひとつの本を作ろうと企画して、作家と製作をしてやりとりして、まずコンテンツができあがるまでに何カ月もかかる。その間は、当然無収入。

それを、お金を払って工場で本にして、仲介を通したり、あるいは独自に流通させる。

紙の本が売れなくなって久しいというけれど、ひとつの書店が、次々と生まれる新しい本の中でどの本を仕入れるのか選択するなんて、とても追いつかないので、ある程度はその仲介がセレクトして本屋におろしているので、そこに食い込めないと、流通させることすら難しい。

そして、期間内にある程度売れないと、返本、といって、まるまる返ってきてしまう。それが進むと、重版未定、断裁といって、廃棄しなくてはいけない。

その仕組みをひとり出版社でやっていくとして、いったいどこから利益が出て、作家さんと出版社にお金が入るんだろう?そして、それを個人で全部やるなんて!

それだけに、人生をかけて、いろんなものを捨てても、本づくりへの情熱がある人たちが、「ひとり出版社」している話がたくさん載っていました。

 

個性的なひとり出版社がたくさん!

でも、そんなに苦しくてもなお、やりたいこと、というのは、ほんとにステキなものが多かったです。

http://www.yumearusha.com/www.mishimasha.com

ミシマ社では、「コーヒーと一冊」というシリーズで、既存の流通の仕組みからはずれて、「買い取り」という形をとることで、本屋さん自身が買い取って、もし売れれば通常よりも本屋さんに利益がでるような仕組みを打ち出しています。

私個人的にも、「本屋さんプッシュ」な本は、書店でも気になります。

 

こちらは、谷川俊太郎さんのご家族が始めた、小さな出版社です。

www.yumearusha.com

 

せんはうたう

せんはうたう

 

 この「せんはうたう」という本、表紙は音楽家のご家族が、中身は谷川俊太郎さんが、装丁もとてもステキで、谷川さんのアドバイスにより、価格は2000円に抑えたんだそうです。

プレゼント用に、リピートして買われたりする、人気商品なんだそう。

 

他にも、変わった装丁の絵本や、大人向けの絵本、自分がどうしても伝えたい古い作家の作品の復刊、新進気鋭の写真家の処女写真集、東京でない場所で、その土地に積み重なった価値やパワーを感じながらの本づくり、印刷にこだわって活版印刷、など。

 

既存の出版の仕組みや会社勤めのライフスタイルに対して疑問をもった人が、出産など自分の人生の転機に、もしくはずっとくすぶっていた気持ちを一念発起させ、自分のつくりたい本を、ホンキで作ろうとする姿。

圧倒されました!

 

軽いノリではない。けど、個性が力強く、おもしろい。

マジョリティとマイノリティの問題って、ずっとあります。
どっちかに転ぶと、逆が奮起する、みたいな。
その二転三転で、歴史は作られているといっても過言じゃないと思います。

既存の仕組みやライフスタイルに、NO!と言って、ゼロから作ろうとする。
そのバイタリティって、すごいですね!
ひとつひとつは小さくても、歴史を動かす起爆だと思います。

どんなものを、ここではどんな本をこの世に生み出したいか。
それは、世界でたった一人、その人にしか分からない、オリジナルです。
そして、それを実現するのは、内からわいてくるようなワクワクの情熱がなければ、できないこと。

だからこそ、その情熱は力強く、私たちが普段疑いもしない「あたりまえ」を、ふと、「あたりまえじゃない」ものに変えてくれます。

 この本、手に取ったときとは、全然違う世界を見せられてしまいました。

 

これからの時代、ひとりひとりが、どんな円を描く?

「ひとり出版社」という言葉が、それこそひとり歩きをする現在、おそらく他のジャンルのどんな「小商い」とも同じように、ひとりでなにかをやろうとすればするほど、ひとりのままでいることはできないはずです。ひとりでも出版に挑んだ人々は、コンパスのようにぶれない自身の軸足を築きながら、もう一方の足をどんなところに置き、どんな円を描こうとしているのでしょうか。(中略)この本を手にとってくださった方が、自分自身の円を描くことへのヒントになればと願います。

(西山雅子『”ひとり出版社”という働き方』はじめにより)

 

最後まで読んでから、 この「はじめに」に戻ると、さらに納得しました。

私はとても「ひとり出版社」なんてできないけど、私は、どんな私らしい円を描いていくんだろう?軸はどこ?そしてもう一方の足を、さあ、どこに置く?

静かにワクワクする、そんな読後感でした。