吉田修一 『路(ルウ)』
田舎に引っ越してきて、もう雨はあがりました、今日はもう降りません、って教えてくれるのは、鳥たちのさえずりだった事を思い出しました。
今年の梅雨はほんとに長くて、雲の中に住んでいるような日が長く続きました。
肌が水蒸気で飽和して息ができないというこの感覚、いつぶりだっけ?
たしかビルの狭間で、強烈な冷房と、南国系のマンゴーか何かのドリンクの氷を口にしてしまった事に、後からビクビクして。
そうでした、それは昔、一人旅のトランジット中、香港の中環で感じた、あの感覚。
行き交う人たちと水蒸気を介して体の一部がつねに触れているような、強烈な蒸し暑さ。
初の1人海外だった事もあるけど、その強烈な湿気さえも、今はエネルギッシュでエキゾチックな記憶の一部になっています。
今、図書館で借りて読んでいるのが、この本。吉田修一の、『路(ルウ)』。
(この地域に引っ越してきて、図書館の蔵書や環境がなかなかいい上に、都市部と違って、人気の本が何十人も予約待ち、ということもなく、サクっと借りられるので、贅沢気分です。)
こちらは台湾の話。
日本の新幹線を輸出するプロジェクトと、それに関わる日本人や台湾人が運命とともに絡まりあう、小説です。
バナナやマンゴーの木、スコール、屋台、熱帯夜、原付バイクでデコボコ道を走り抜けるときの、暑さと風と熱気。全てに私はあの日の記憶を重ねながら、この湿度の多い時期の日本で、読んでいます。
吉田修一は、本当に大好きです。
男性作家ならではの、鉄や建造物なんかが軋み、絡まり合いながらエネルギーが臨界に達しようとするような、緊迫。苦しくなるまでの、浮き彫りの人間たち。もちろん、横道世之介に限っては、3ページごとに涙を流して笑いこけましたが。
湿気の多い最近、よく通っているのが、コインランドリー。
出来上がるのを待つ車の中が、私にとって最高の読書空間です。
おともは、カフェオレ。
でも、コーヒーじゃなくて、今日はインカコーヒーで。
ノンカフェインで、穀物のほろ苦さが、クセになります。
扱いも、インスタントコーヒーと同じで手軽。
ポーランドでは、外食先などで、「インカくださ~い」って言えば出てくるぐらいのメジャーな飲み物だそうです。
台湾の濃い空気を感じに、今日も、つかの間の読書の旅へ、行ってきます。