がやりんで自転車を借りて、世田谷「夏椿」へ。金継ぎ師、黒田雪子さん修繕の、白い大きな壺。用賀のバスク料理屋さん「ランブロア」を発見。
がやりんで自転車を借りて、世田谷「夏椿」へ。
先日の千葉・東京の旅日記の続きです。
0日目夜、羽田到着。
1日目午前、新宿ベルクでブランチ。
1日目、六本木イスクラ薬局で、漢方相談。
1日目、銀座周辺。
2日目、四谷周辺。
2日目、千葉の定食屋さん、ポポキへ。
3日目朝、千葉の「豆NAKANO」でコーヒー。
千葉駅北口の「豆NAKANO」さんでコーヒーを飲んでから、総武線で40分ほどかけて都内へ。
渋谷で田園都市線に乗り換え、桜新町で降ります。
いつか絶対行ってみたいと思っていたお店があります。
世田谷にある、「夏椿」という雑貨や道具のお店です。
最寄りの駅から徒歩15分ほど、駅からちょっと離れた住宅街の中。
古い趣のある民家で、ステキな暮らしの道具などを売っているお店です。
なぜわざわざそこにって、私は趣味で金継ぎをやっているのですが、
私が一番最初、金継ぎをやりたい、と思ったのは、黒田雪子さんという金継ぎ師の作品の載った記事を、クウネルで見かけたことがきっかけでした。
ひとくちに金継ぎといっても、いろいろ。
世の中には、無神経な太い金色の線がにぎにぎしく光り、本来の器よりも修繕痕のほうがむしろドヤ顔で、ちょっと上品とはいえないような金継ぎもあり。
また、本漆ではなく、食器として安全性に疑問があるようなもので接着してあるような金継ぎもあり。
それぞれの教室で教えていることも、売っている本ですら、細かいところはそれぞれでずいぶんやり方や順序がちがっていたりします。
本流の伝統工芸というわけではなく、もともとが骨董とかのあいまいな分野でもあり、必ずしも技法は統一されてないので、金継ぎって、修繕をする人の数だけいろいろな考え方・センス・やりかた・仕上げがあるのです。
黒田さんの金継ぎは、本漆を使い、仕上げは艶消しの消粉という金粉、銀粉なども多く、その細い線が映し出す景色は、なにもワレがなかったまっさらの時よりもむしろ美しく、凛として雰囲気があります。
今の私の最高の理想の金継ぎ。
カッコイイ!
それが、私の第一印象でした。
それから数年、今年になって、この本も手に入れることができ、
ちょっと夏の暑い時期はバテてできませんでしたが、自分で直すことで、お気に入りなのに割れてしまって悲しい思いをした器を、割れる前よりもカッコよく、かつ、食器として安心して使える安全なものに仕上げ、また食卓にのぼってもらい、末長くメンテしながら使うことができたら、ステキだなと思っています。
また、その循環があるから、割れることを心配して好きな器を買えない、使えない、という悲しい思いをせずに、安心して、自分の大好きな器で日常の食事ができたら幸せだな、とも思っています。
実際、これまでに仕上げたいくつかの皿や湯のみやカップなどの修繕品は、まるで「継ぎ痕が当たり前の模様です」みたいな顔をして、再び、我が家の食卓で活躍してくれています。
世田谷の「夏椿」は、黒田さんの金継ぎの修繕の取り次ぎをしているお店で、上京したら、ぜひ、行ってみたかったのです。
昭和期、当地域に漫画『サザエさん』の原作者・長谷川町子が居住していた。国道246号に程近いセブン-イレブンは、以前は「三河屋」という酒店で、漫画に登場する「三河屋さん」のモデルであった。また、桜新町一丁目の長谷川町子美術館では、『サザエさん』の原画が常設展示されているほか、長谷川姉妹所蔵の美術収蔵品展示が行われている。桜新町駅と当美術館を結ぶ商店街通りが「サザエさん通り」と名づけられ、公共スペースのあちこちにサザエさんのイラストが施されるなど、「サザエさんの町」として親しまれている。
(桜新町 - Wikipediaより)
駅前の通りには、あちこちにサザエさんが。
原作者の長谷川町子さんが暮らしていたことがあり、マンガのモデルとなった町なんだそう。
なので、今回は時間がなく寄りませんでしたが、長谷川町子美術館もあります。
古くからある町だというのがよく分かる、小さな路地がたくさん。
雰囲気のある、ちょっと親しみやすい町です。
さて、夏椿は、ここから徒歩15分。
暑い雲に覆われて蒸す午後。
数時間後にはもう羽田に居なくてはいけない私は、徒歩ではない方法で夏椿へ向かおうと思っていました。
初乗り+αぐらいだろうし、タクシー?
もしくは…。
世田谷には、どの駅に返してもいいらしい、レンタサイクルが整備されています。
かなりの方向音痴な私。
かなりの不安がありましたが、時間短縮+思い出づくりに、思い切って自転車をレンタルしてみました!
桜新町の駅前通りから少し路地に入ったところに、「がやりん」ステーションがあります。
身分証明などを出せばレンタルのカードを作ることができ、当日作成→当日解約、という形で、旅行者でも1日だけのレンタルができるんだそう。
カード作成時に500円のデポジットをとられますが、当日解約してもちゃんと返ってきます。
電動自転車はもうちょっと高かったのですが、この普通のママチャリなら、24時間たった200円で、 レンタルできました!
行け!kurashito号!笑。
今でこそ田舎暮らしで主に軽自動車で動いていますが、思えば、街で暮らしていた独身時代、私は相当な自転車っ子だったのです。
当時はまだ駐輪についての規定が緩く、繁華街では店の前に自転車を停めることができ、個性的な路面店の前に自転車を停めては、また次のお店へ。
雑貨屋、洋服屋、カフェ。通りすがる知り合い、立ち話。
機動力のある自転車でめぐりながら、街を肌で感じるあの空気感、懐かしい思い出です。
今では、自転車で通おうなんて思えない距離の実家と大学の間も、実家と最初の就職先の会社の間も、歩行者のほとんどいない海辺の広い道を、結構なスピードで飛ばして行っていたのです。
若かった!
そんなこんなで、実にひさしぶりの、自転車です。
方向音痴の私のことなので想定内ではありますが、何度か降りて、マップを確認。
狭い路地が多く、歩道も道路も狭くてそこを車が通り抜ける桜新町でしたが、びっくりするほど自転車も多い!
世田谷の奥様たちが電動自転車で路肩をするするとすりぬけていく後をつけて、私も世田谷の町をサイクリング。
ちょうど、私が育った町や大学があった町に似た親しみやすい町で、自転車でめぐることで、小さなお店や町の人たちの暮らしをより肌で感じることができました。
民家しかない住宅地を訪ね歩くのは思った以上に難易度が高かったですが、なんとか到着。
立派な門構えの邸宅。
ここが、夏椿です。
お邪魔すると、中庭がお出迎え。
タイムスリップしたかのような、風情のある和風のお庭です。
水連鉢も箒も、ステキです。
「おじゃまします」の言葉が似合う、店構えです。
お店の中もほんとうにステキで、なんともいえないたたずまいのお皿、ガラス類、布、ざるなどの暮らしの道具や、おそらく真鍮のブレスレットなどが、縁側や奥の畳の間など古い日本家屋の中にディスプレイされています。
※撮影禁止だったので、店内の様子は、こちらからご覧ください。(↓)
その昔、東映の撮影所が近かったそうで、美空ひばりさんや原節子さんが休憩されていた家なんだとか。
そんなことに思いをはせつつ、ちょっとしたタイムトラベルができる、昭和の趣と今のセンスが両方感じられるお店です。
入口近くでカワイイ!と思ったのが、コレ。
おおやぶみよさんの、ガラスの箸置きです。www.hizuki.org
最初は箸置きだなんて思わないぐらいおおらかなサイズなので、軽めのペーパーウェイトとして、自分用のお土産に購入しました。
なんだか食べたくなるような、ひんやり透明で、うるっとした艶。
おおやぶみよさんの温かみとゆらぎのあるガラスの器は、どれもステキでした。
金継ぎ師、黒田雪子さん修繕の、白い大きな壺。
箸置きを購入してから、店主の恵藤文さんに、話しかけてみました。
九州から出てきて、方向音痴なのに自転車をレンタルしたことから、黒田雪子さんにあこがれて金継ぎを始めて、いつかこの店に来てみたかったことなど。
恵藤さん、本当にステキな方でした!
黒田雪子さんは、夏椿の近くにお住まいなこと。
もともとはグラフィックデザイナーさんで、様々ことをされてきた方だということ。
今度予定されている個展のお話。
目黒のクラスカには、黒田さんが直された大きな花瓶がディスプレイされているとか。
そして、夏椿のレジカウンターの隣に、ドドンと鎮座している、大人でも手が回らないほどの、白い素焼きの大きな大きな壺。
なんとこれは、黒田さんが直されたものなんだそう!
ちょうど、この本の巻末に、震災で壊れた大きな大きな壺を、四畳半一部屋まるごとムロ(湿度を与えて漆を硬化させる空間。通常は箱や棚で十分)にして、自転車のチューブで縛って、大変だけどやってみます!という記事が載っていた、(↓)
まさにその、大きな大きな白い壺。
夏椿のものだったのですね!
なんでも、庭に出していたものが震災の時に割れてしまい、黒田さんにみてもらったところ、大変そうだけどやってみたい、ということで、お近くなので何回かに分けて破片を袋に入れて運んで、数か月かけて修繕されたんだそうです。
やっぱり黒田さんのセンスはすばらしく、もともとが素焼きの素朴な壺なので、金銀など一切使わず、黒や赤など色漆さえも使わず、素朴な漆そのままの茶色で仕上げていました。
金継ぎというよりは、割れたところを赤土の粘土で埋めたかのような、しっくりくる感じ。
でも、裏側など細かいところを修繕目線で見てみると、気が遠くなります…!
大きな大きな壺に、細かい破片が蜘蛛の巣みたいになった部分も丁寧に継ぎ、大きなカケも錆漆でしっかり埋め、下手な修繕をしてズレが重なっていくと最後に元の丸い形に治まらなくなるのですが、当然、それもなく。
この作業の質と量と根気、さすがです!!!
あこがれの黒田さんの作品を、実際この手で触れることができ、感激しました。
やっぱり、メディアを通してではなく、肌身で実際に触れる・時空を共有することは、言葉以上の莫大な情報量をもちますね。
「黒田さんにもお伝えしときますね。喜ぶと思いますよ」
と、恵藤さんがおっしゃってくださいました。
感激とともに夏椿を出ると、外壁のツタ植物ですら、趣あるしつらえに見えてきます。
現実はそこに停めてあるママチャリにまたがり、見知らぬ町で地図を頼りに駅を目指すのですが・・・。
用賀のバスク料理屋さん「ランブロア」を発見。
方向音痴の私、案の定、直角でなく放射状になっている交差点あたりで、どうやら道を間違えました。
そこまで道の表示は「桜新町」だったのに、いつのまにか「用賀」に。
桜新町の駅を目指していたはずの私の自転車は、隣の町の用賀へ向かってしまっていました。
用賀も桜新町の延長で、親しみやすい、路地の多い、古くからある町のようでした。
迷ったついでに、ステキなお店も発見!
LANBROA。この独特なアルファベットの並びの感じは?!
そしてこの特徴的な十字のマークは?!
バスク!!!
偶然にも、用賀に新しくできたばかりのバスク料理屋さんの前を通りました。
まだ午後で開店前でしたが、窓からはバスクボーダーがのぞいていて。
あぁバスク、大好きです!
もう4年ほど前になりますが、スペインバスクのバルの聖地、サンセバスチャンと、フランスバスクの小さな町、サンジャンドゥリュズに行ったときに見かけた、独特のアルファベットの並び、バスクの十字、バスクボーダーのリネン。
用賀のバスク料理屋さん。
いつかまた夫と行ってみたいところが、増えました。
そこから地図を確認して、長い長い寄り道の後、無事、桜新町の、がやりんステーションにたどり着き、自転車を返却しました。
昼下がりの桜新町の商店街は、一度迷って帰ってくると、もはやほっとする光景。
また田園都市線で渋谷へ戻り、そこで2、3用事を済ませ、そろそろ羽田へ向かわなくてはいけません。
<はてなブックマークへの返信>
ブクマ、ありがとうございます!
もうね、カッコイイのひとことにつきますよ、黒田さんの作品。
という私も白い大きな壺以外は写真で見ただけなのですが。
オフィシャルサイトにたくさん載ってるので、ぜひ見てみてください!
→器の直し | 黒田雪子 なおす、みなおす。